太陽光発電(PV)、蓄電池、電気自動車(EV)、ヒートポンプ式給湯機(HP給湯機)などの様々な需要家資源と連携・協調を図ることにより、電力系統の需給運用面や設備計画面での各種問題の緩和や解決が期待される。このため、当所では、これらに資する各種の技術開発を行っている。
PV大量導入時の需給運用問題への取り組み
PV大量導入時には、軽負荷期を中心に、余剰電力が発生することが想定される。この対策の一つとして、余剰電力が見込まれる時間帯に蓄電・蓄熱などの需要家機器の運転をシフトし、PV発電電力を最大限利用することが有効である。当所では、需要家の便益を考慮した需要家機器の運転計画手法を開発しており、実験とシミュレーションにより、需要家のPV出力抑制電力量や電気料金を低減できることを確認している。
また、PV大量導入により電力需要カーブがダックカーブ化(電力需要が昼間に下がる一方、夕方から夜にかけて急速に立ち上がり、電力需要カーブがアヒルのような形になること)し、夕方に必要な需給調整力が大きく増大することも想定される。この対策として、電力需要カーブの変化が極力滑らかになるように需要家の蓄電池やHP給湯機の運転時間帯をシフトさせるインセンティブ付与手法を開発している。これまでに、住宅地域を対象としたシミュレーションにより、同地域の電力需要ダックカーブ化を有意に改善できることを確認している。
蓄電池の充放電集中緩和に対する取り組み
需要家資源のうち、蓄電池は特に運用の自由度が高いため、需要家が蓄電池を経済運用すると、電気料金が安価な時間に充電が集中するなど、配電系統への影響(過負荷、電圧変動など)が懸念される。蓄電池の充放電集中緩和策の一つとして、デマンドレスポンス(DR)を活用して、需要家の蓄電池充電を分散させながらシフトさせ、配電系統の負荷平準化を行う手法を開発している。開発手法では、負荷シフト量があらかじめ設定した目標量になるときに、最大のインセンティブを与えるようにして、新たな負荷ピークが発生しない工夫をしている。これまでに、住宅地域配電線を対象としたシミュレーションにより、年間ピーク負荷を最大で約10%低減できることを確認している。
EVのDR活用に関する取り組み
EVは需要家資源の一つであり、将来的にはDRに活用することも考えられている。しかしながら、EVは移動体で、常に電力系統に接続されているわけではなく、どの程度DRに活用できるのか不明である。そこで、当所では電気自動車交通シミュレーターにより、需要抑制指令を与えた場合のDR活用可能量を試算している。これまでに、DR活用可能量(充電抑制と放電の合計)は、日中では自宅と職場で同程度あり、夕方は帰宅により自宅で大きいことを明らかにした。また、需要抑制指令が解除された後にEV充電が集中して新たなピークが発生する可能性のあることも明らかにしており(図参照)、今後、対策を検討していく予定である。
EVをDRに活用した場合の充電電力パターンの変化の解析例
連載一覧
連載各回は以下よりご覧いただけます。
- はじめに
- 電力・エネルギー事業環境の変容と研究の概要
- 電力需給プラットフォーム化に資する解析ツールの開発
- 配電プラットフォームに関する海外事例調査・分析
- 需給運用・設備形成に資する需要家資源との連携・協調技術
- 配電線電圧管理に資する需要家資源の協調制御技術
- FastDRを対象とした産業分野における需要家資源の活用ポテンシャルとコストメリット
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本コンテンツは、電気新聞連載寄稿「電力プラットフォームの将来(2018年7月・6回連載)」にて、ENICの取り組みを紹介した記事を加筆・修正したものです。