電力需給プラットフォーム化に資する解析ツールの開発

太陽光発電(PV)の大量導入に加えて、今後はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)後の電力自家消費ニーズにより、需要側における蓄電池や電気自動車(EV)の導入拡大が見込まれる。また、電力システム改革の進展により、小売り全面自由化や電力取引市場の整備が進められており、今後は様々な小売事業者やアグリゲーター事業者が出現し、需要地域(コミュニティー)において様々な需要家資源を仮想発電所(VPP)として統合制御することも考えられる。

このように、需要家やコミュニティー運用者が能動的に需要家資源を活用して、経済性を重視した自律運用や系統全体の需給調整に向けた運用を行うと、配電系統では想定外の需要変動による過負荷の発生や電圧変動など電力品質への影響が懸念される。このため、当所では、将来の電力需給プラットフォーム化に資する解析ツール開発の一環で、コミュニティーと配電系統の相互影響を評価やデマンドレスポンス(DR)指令の与え方など、対策技術の開発を支援する解析ツールを開発している。

開発した開設ツールの構成

 解析ツールは図に示す構成で、需要家およびコミュニティーと配電系統を一括してシミュレーションする。コミュニティーの自律運用が配電系統の電圧・潮流に与える影響、ならびに配電系統の電圧・潮流に関わる制約がコミュニティーの運用に与える影響を、それぞれ解析できる。また、本ツールは、当所開発の需要シミュレーションツールと電気自動車交通シミュレーターと連携して、任意地域における、需要家の電力需要とEV充電需要を合わせた電力需要データを作成・利用できるようにして実用性を高めている。

 さらに、需要家がエネルギーマネジメントシステムにより自動でDRに対応できるという条件の下、電力需要カーブのダックカーブ化(電力需要が昼間に下がることにより、夕方から夜にかけて急速に立ち上がり、電力需要カーブがアヒルのような形になること)の改善や負荷平準化を目的としたDR指令を自動計算する機能も備えており、DRを活用した対策手法の評価にも利用できる。

 本解析ツールは、送配電事業者をはじめ、コミュニティー運用者、アグリゲーターなど、様々な事業者の立場に立って利用できることを目指している。例えば、送配電事業者ではPVや蓄エネルギー機器大量導入時の配電系統の設備形成や運用の合理化、コミュニティー運用者やアグリゲーターでは配電系統の電圧・潮流に関わる規定・制約を順守しながらの需要家資源の有効活用、小売電気事業者ではDRを含めた料金設定や収益の分析、などでの利用が挙げられる。

 これまでの解析例として、コミュニティー運用者が配電系統に分散設置した蓄電池を利用して経済運用した場合、調達価格の安い時間帯(深夜・早朝)に蓄電池への充電が集中して、配電線の最大電流、ならびに配電線の電圧調整装置との兼ね合いで、最大電圧がともに増大する場合のあることなどを確認した。

 今後、DRの活用法など、対策技術を含めて、将来の電力需給プラットフォーム化に資する様々な開発・評価に活用していく予定である。

連載一覧 
連載各回は以下よりご覧いただけます。

一括ダウンロードはこちらから(PDF)

本コンテンツは、電気新聞連載寄稿「電力プラットフォームの将来(2018年7月・6回連載)」にて、ENICの取り組みを紹介した記事を加筆・修正したものです。

研究トピックス
研究トピックス

速報性の高い成果の最新情報を掲載