配電プラットフォームに関する海外事例調査・分析

電気新聞ゼミナール記事(2018年6月27日掲載)において、米国ニューヨーク(NY)州公益事業委員会(PSC)が推進しているエネルギービジョンリフォーム(REV)の中で、配電事業者が運営するプラットフォーム(DSP)を用いた新しいビジネスモデルについて報告されている。このプラットフォームの役割は、第1が系統設備計画の最適化、第2がきめ細かい潮流監視・制御による系統運用の高度化、第3が分散エネルギー資源(DER)市場の運営である。本編では、第1、第2の役割の展望について解説する。

配電設備計画の高度化

 DERの導入が進むと、その導入量やペース、連系地点の偏りなどにより潮流の不確実性が増すため、配電設備計画は複雑さを増す。そこでPSCが設置した市場設計・プラットフォーム技術作業部会は、DERが運用のニーズを満たしつつ、より効率的に配電網にDERを統合するための設備計画手法を開発する必要があるとして、そのアプローチの方法を提案している。

 まずは「Hosting Capacity」(HC: 追加費用無しで配電網に統合できるDER導入量の上限)の特定である。これには、配電網の特性(設備構成、地域性、既存DER接続量など)、DERの種類・分布を考慮したモデルの開発が必要となる。

 続いて、DERの価値(設備投資費用抑制、レジリエンシー向上など)の場所別、時間別の特定である。これにより、HCを踏まえたDERの最適配置、配電網の効率化を図ることができる。

 その他、不確実性に対応するために、複数のDER導入シナリオを想定し、それをベースにした確率論的計画手法を開発することや、将来的にDERの普及が大幅に進む場合には送電系統の設備計画との融合により、HCの増加や、送電レベルでの設備増強の繰り延べの可能性についても述べられている。

配電運用の最適化

 DERの普及により配電網に流れる電流や電圧の変動幅が大きくなり、系統運用者が電圧品質を維持していくためには、より高精度に系統の状況を把握し制御できるツールが必要となる。高精度な状況把握には、配電系統の電圧や電流、開閉器の入切状態、DERの発電量などの情報をリアルタイムに一元的に監視できるシステムの構築、ならびにスマートメータ(次世代電力量計)を含めたセンサー類の面的整備が必要となる。

 これらの情報を基に系統運用の最適化を図るためには、DERの指令制御技術を確立した上で、DERと協調した系統電圧、電流の自動調整システムが必要である。また、DERに給電指令を出すためのルール整備や設備投資、DER所有者との調整も必要となる。

 さらに、DERの普及が進めば、送電系統との協調によりリアルタイムで配電系統の再構成、最適化が必要になるとしている。

 将来的に、NY州は電圧制御やピーク負荷抑制といった送配電網の構築・運用の高度化に資するサービスをDER市場で取り扱うことを指向しており、様々な実証試験を実施している。

NY州の実証試験

 NY州では現在16のREVのプロジェクトが実施されており、中には配電設備計画の最適化に資するものもある。配電事業者は、配電網上のDERの配置最適化やDSP運用者としてのノウハウ蓄積、新たな収入源創出等の知見を得る段階である。

 一方で、今後、より系統運用に資するサービス・商品が取り扱われる可能性も示されており、第3の役割である将来のDER市場の機能・役割、規模感等の詳細が明らかになると期待される。

DSP事業検討のキーポイント

 最後に、NY州のこれらの取り組みについて、筆者が重要だと感じている点について触れる。それは、NY州の配電プラットフォーム事業の必要性や、その機能について検討する文書が配電事業者ではなく、州政府や公益事業委員会から発行されているという点である。我が国でもNY州と同様に、今後、分散電源の大量導入によって既存の配電事業は減収と設備投資の増加が見込まれる中、配電事業者による新しいビジネスモデルの検討が必要となる。国民の理解を得ながら検討を進めるためには、NY州のような官民一体での取り組みは非常に重要であろう。

連載一覧
連載各回は以下よりご覧いただけます。

一括ダウンロードはこちらから(PDF) 本コンテンツは、電気新聞連載寄稿「電力プラットフォームの将来(2018年7月・6回連載)」にて、ENICの取り組みを紹介した記事を加筆・修正したものです。

研究トピックス
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