―環境試験室を用いた実験による検討―
背 景
COVID‐19を始めとする感染症対策の一つとして、窓開けや換気扇等を利用した適切な換気が推奨されている[1][2][3]。しかし、エアコン運転時には居住者が換気をやめてしまい、十分な換気が行われない可能性がある。適切な換気を促すためには、換気量の増加による温熱環境等への影響を評価する必要がある。
そこで、第1報[4]、第2報[5]では数値シミュレーションによって、冷房時に換気量を増加させた場合の温熱環境と消費電力量の変化に関する知見を得た。この知見を有効に活用するためには、実験的な検討も実施しておくことが望ましい。
目 的
当所の環境試験室[注1]で、換気量の増加に伴う室内温熱環境とエアコンの消費電力量への影響を実験で検討する。
手 法
当所の環境試験室内に設置された、旧省エネ基準の断熱性能を有する試験住宅内で、換気による室内温熱環境とエアコンの消費電力への影響を確認した。試験住宅は、居間・食堂(LD)を想定した単室にL型の廊下の付いた1階建て住宅であり、LDにエアコンと発熱模擬のヒータ(200W×2台)が室内に設置されている(図1)。
図1. 環境試験室・試験住宅
LDの腰窓を開けた状態のまま、自然換気に加え、強制排気2段階の計3つの換気条件でエアコン冷房実験を行った。エアコンの設定温度を27℃、風量を自動とし、外気温度は35℃とした。表1に実験条件を、図2に強制排気を行った掃出し窓の写真を示す。
表1. 実験条件
風量測定器を用いて各ファンの風量の測定・調整を行った上で、複数のファンを設置し、 台数制御によって排気量の調整を行った。
結 果
3つの換気条件全ての場合において、床上高さ1.7m以下の領域で、室内温度が設定温度以下に維持された(図3)。
エアコンの消費電力は、自然換気の場合と、自然換気に加えて108[m3/h]強制排気を行った場合がほぼ等しい結果となった [注2]。また、自然換気に加えて324[m3/h] 強制排気を行った場合、自然換気の場合と比較して消費電力が約37%増えた(図4)[注3]。
[注1] 環境試験室内に試験住宅が設置されており、試験住宅の周囲温度を様々な温度条件に調整可能である。
[注2] 使用したエアコン固有の制御によると考えられる。自然換気に加え108[m3/h]強制排気を行った場合、エアコンは吸い込み温度の変化などから、圧縮機の運転レベルを変えずに、ファンの回転数のみを増やし、処理熱量を増やす制御を選択したと推察された。この場合、圧縮機の消費電力は増えず、ファンの消費電力が数W程度増えるが全体の消費電力としてはほぼ変わらない結果になったと考えられる。ただし、条件(エアコン機種や外気温度、設定温度や風量レベル等)が異なれば、制御が変わり、結果消費電力も変わる可能性があり、注意が必要である。
[注3] 第1報、第2報のシミュレーションと本実験は条件が異なるため、両者の結果を直接比較することはできない。ただし、換気量増に伴う消費電力量の増加傾向はオーダー的には合っており、シミュレーションはエアコン固有の制御を除き概ね適切に実施できていると判断した。
報告者
安田昇平研究員、上野剛上席研究員、岩松俊哉主任研究員、宮永俊之副研究参事
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参考文献
[1] 上手な換気方法~住宅編~,ダイキン工業(株),2020,https://www.daikin.co.jp/air/life/ventilation/
[2] 弊社商品による換気方法・機能について,YKKAP(株),2020,https://www.ykkap.co.jp/company/jp/important-notice/20200414.html
[3] 新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して 緊急会長談話,空気調和・衛生工学会,2020,http://www.shasej.org/recommendation/shase_
[4] 換気が冷房時の室内温熱環境とエアコンの消費電力に及ぼす影響,電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター,2020,https://wp-criepi.denken.or.jp/technology/wle/influenceofventilation/
[5] 換気が冷房時の室内温熱環境とエアコンの消費電力に及ぼす影響-複数地域および異なる設定温度への条件の拡張-,電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター,2020,https://wp-criepi.denken.or.jp/technology/wle/influenceofventilation/