行動科学やデータをどのように活用すれば、省エネサービスを改善できるか?(第3回)

IoTセンサで電気利用の行動観察

 スマートメーターとIoTセンサの普及で、家庭のエネルギー利用の詳細把握が可能となりつつある。前2回(10月9日・23日)は、環境省ナッジ事業の成果から省エネ情報提供の大規模実証で得た知見を紹介した。今回は、家庭の行動観察に基づく省エネサービス検討を紹介する。

省エネは生活費の節約と似ている

 生活費節約では、家計簿で食費など項目ごとの支出を記録・把握し、支出の必要性を判断する。必要性は、各家庭の価値観に依存し、筆者の場合、珈琲と本に関する予算は譲れない。

 省エネでも、エネルギー利用の記録に加え、必要性の判断が重要となる。後述のインタビューからも、夫の趣味のワインクーラーを無駄と感じたり、早起きの猫のため3時に暖房をつけるなど、多様な価値観が得られた。

行動観察:電気利用実態を知る

 電気は、無意識な利用も多く実態把握が困難である。利用ごとの記録はなく、合計量しかわからない。

 行動観察は、調査者が実際に生活環境などの「場」で観察し、人の活動を定性的にとらえる手法で、無意識の行動を把握し、潜在的ニーズや課題を導き出す。価値観を含めた電気利用実態の把握にも有効だが、家庭内での長時間の観察は不可能である。そこで、電中研開発のIoTセンサ「おうちモニターキット(OMK)」(図)とインタビューを組み合わせ行動観察を実現した。OMKは、スマメで家全体の消費電力、センサでエアコンの消費電力や室温などを取得し、リアルタイム表示する。エアコンによる消費電力増や、室温低下が確認できる。

 インタビューでは、記録したセンサデータの可視化により、生活パターンやそこからの逸脱を振り返り、電気利用の意図や省エネ行動の障壁を探った。OMKを日常的に確認し、通常時や家電利用時の変化など消費電力を把握しているモニターも多く、センサ計測、リアルタイム表示、計測データに基づくインタビューの組み合わせにより、単純なアンケートでは得られない各家庭の電気利用の特徴や省エネ障壁を抽出できた。前述の事例はその一部である。

各家庭に適した省エネサービスに向けて

 行動観察の結果、人の心理的特徴(損失や利得への感度)に応じたメッセージ(省エネ不実施時の損失もしくは実施時の利益を強調)が省エネに有効との仮説が得られた。そこで、この仮説を検証するため、事前テストでモニターの心理的特徴を把握し、特徴に合致する表現のメッセージをOMKに提示する実験を行った。仮説通りの反応を示すモニターも多かったが、利用実態に反したり(エアコン未使用時に温度変更を促す)、関連が納得できない(自分の省エネと世界の環境保護に距離を感じてしまう)場合、強い拒否感が示された。一方、一般的メッセージは、「当たり前で、自分のことと思えない」という意見もあった。

 郵送省エネレポート(第1回)、スマホアプリを用いた省エネ情報提供(第2回)、今回の個人特性に応じたメッセージ提供と、パーソナル化が進むほど省エネ促進効果は高まりうるが、メッセージへの抵抗感も強まるリスクがある。このようなトレードオフを考慮したサービス設計が重要である。

【図 おうちモニターキットの画面例】

注)消費電力とそれが一時間続いた場合の料金、室温、時刻が表示されている。消費電力と室温の大きさは円の大きさでも表現され直感的な理解を促す。

電気新聞ゼミナール連載194回 (2019年10月23日掲載 )


三浦 輝久/みうら てるひさ
略歴 エネルギーイノベーション創発センター 需要デザイングループ 上席研究員
2001年度入所 専門分野: データマイニングなどデータ分析手法の開発  博士(情報学)

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